プログラマー、数学者、建築家、CGアニメーター、絵師。ひとりの天才ではなく、専門分野の異なる500人以上の集団が、1つの作品を作り上げる。チームラボは、これまで紹介してきた9人の「個人作家」とはまったく違う成り立ちを持つ、日本発のアートコレクティブです。東京・豊洲と麻布台ヒルズの施設は、それぞれ異なる年に「単一アート・グループとして世界で最も来館者が多い美術館」としてギネス世界記録に認定されています。
この記事では、チームラボがどんな集団で、どんな作品や施設を作ってきたのか、代表作・代表施設10選を中心にまとめました。現代アート全体の中での位置づけは、ピラー記事もあわせてどうぞ。
- チームラボとは?基本情報
- 理念:超主観空間とボーダレスという思想
- 代表作・代表施設10選
- 1. 世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う/2013年
- 2. 「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」(日本科学未来館)/2015年
- 3. チームラボ かみさまがすまう森(御船山楽園)/2017年〜
- 4. teamLab Borderless(お台場)/2018年〜2022年
- 5. teamLab Planets TOKYO(豊洲)/2018年〜
- 6. Story of the Forest(シンガポール国立博物館)
- 7. 呼応する森(Forest of Resonating Lamps)
- 8. お絵かき水族館(Sketch Aquarium)
- 9. teamLab Borderless(麻布台ヒルズ)/2024年〜
- 10. 海外への展開(マカオ・北京・上海ほか)
- 賛否両論:これは芸術か、それとも「映えるアトラクション」か
- 集団創造というビジネスモデル
- よくある質問
- まとめ
チームラボとは?基本情報
チームラボは2001年、東京大学工学部計数工学科を卒業したばかりの猪子寿之を中心に設立されました。猪子は1977年、徳島市生まれ。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究していたという異色の経歴の持ち主です。設立当初から「プログラマ・エンジニア、数学者、建築家、CGアニメーター、絵師、ウェブデザイナー、編集者など、様々な分野のスペシャリストから構成されるウルトラテクノロジスト集団」を標榜し、個人ではなく集団による創造にこだわり続けてきました。現在は東京・千代田区に本社を置き、従業員数は500人を超えています。
理念:超主観空間とボーダレスという思想
チームラボの作品を理解するうえで欠かせないのが「超主観空間(Ultrasubjective Space)」という独自の理論です。西洋絵画の遠近法は、鑑賞者の視点をひとつに固定し、絵の中に消失点を置くことで奥行きを表現します。これに対し、日本の絵巻物や屏風絵、襖絵といった前近代の東アジア美術は、鳥瞰図的にあらゆる箇所へ焦点を合わせ、平面的でありながらどこまでも広がりを感じさせる空間表現を持っていました。チームラボはデジタル技術を使ってこの論理構造を分析・再構築し、鑑賞者がどこから見ても、あるいは作品の一部になっても成立する空間を作り出しています。
もうひとつの核となる考え方が「ボーダレス」です。個々の作品が固定された枠に収まらず、部屋から部屋へとまたがって移動し、互いに影響し合い、鑑賞者の動きにも反応しながら、二度と同じ状態を繰り返さない。あらかじめ録画された映像のループではなく、リアルタイムでコンピューター計算されて変化し続けるという制作手法も、この思想を支える技術的な土台になっています。
代表作・代表施設10選
1. 世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う/2013年
江戸時代の絵師・伊藤若冲の屏風絵「鳥獣花木図屏風」「樹花鳥獣図屏風」をモチーフにした映像作品です。若冲の描いた枡目描き(方眼状に区切って彩色する技法)を、デジタルのピクセル・アートと重ね合わせ、鑑賞者が近づくと絵の中の動物や植物が反応して変化します。江戸時代の絵画技法とデジタル技術の連続性を体現した、チームラボの美術表現の原理を象徴する初期の代表作です。
2. 「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」(日本科学未来館)/2015年
東京・日本科学未来館で開催されたこの展覧会は、約47万人を動員し、同館の入場者数記録を更新しました。子どもが描いた絵がスキャンされてスクリーンの中を泳ぎ出す「お絵かき水族館」など、鑑賞するだけでなく参加・創造できる体験型の要素は、この時期から本格的に確立されていきます。
3. チームラボ かみさまがすまう森(御船山楽園)/2017年〜
佐賀県武雄市の国指定名勝「御船山楽園」の広大な敷地を舞台にした、季節ごとに展開する野外インスタレーションです。「自然が自然のままアートになる」というコンセプトのもと、竹林や湖面に光の演出を施し、屋内の展示施設とは異なる、自然そのものと融合する表現の可能性を切り拓きました。
4. teamLab Borderless(お台場)/2018年〜2022年
東京・お台場に開館した、世界初の常設デジタルアートミュージアムです。「地図のないミュージアム」と呼ばれる通り、明確な順路がなく、作品同士が境界なく連続する構成が最大の特徴でした。2019年には来館者数219万人超を記録し、「単一アート・グループとして世界で最も来館者が多い美術館」としてギネス世界記録に認定されています。施設の入居していたビルの全館閉館にともない、2022年8月に営業を終了しました。
5. teamLab Planets TOKYO(豊洲)/2018年〜
裸足になり、時には膝まで水に浸かりながら鑑賞する、身体ごと作品に没入するというコンセプトの施設です。花畑の中を歩く「Floating in the Falling Universe of Flowers」など、視覚だけでなく触覚や温度感覚も巻き込む体験型の展示で知られています。2023年度には来館者数250万人超を記録し、こちらも「単一アート・グループとして最も来館者が多い美術館」としてギネス世界記録に認定されました。
6. Story of the Forest(シンガポール国立博物館)
シンガポール国立博物館の回廊に常設展示されている作品です。専用のスマートフォンアプリと連動し、来館者がアプリを通じて動植物を「捕まえる」と、その生き物が壁一面の映像作品の中に登場するという、デジタルと現実の橋渡しを行う画期的な展示として話題になりました。
7. 呼応する森(Forest of Resonating Lamps)
暗闇の中に無数の電球型のランプが吊るされ、鑑賞者がひとつのランプに触れると、その光と音が波紋のように周囲のランプへ伝わっていくインスタレーションです。国内外の様々な会場で繰り返し展示されてきた、チームラボを代表するシリーズのひとつで、「個」と「個」がつながり合うことで全体が成り立つという、集団的創造そのものを体現するような作品でもあります。
8. お絵かき水族館(Sketch Aquarium)
子どもたちが用紙に描いた魚や生き物の絵を専用のスキャナーで取り込むと、その絵がそのまま巨大なスクリーンの中を泳ぎ出すという参加型の作品です。「鑑賞する」から「創造に参加する」への転換を象徴する代表的な仕組みで、国内外の展示で定番のコンテンツとして親しまれています。
9. teamLab Borderless(麻布台ヒルズ)/2024年〜
お台場から移転する形で、2024年2月、東京の新ランドマーク・麻布台ヒルズに再オープンしました。約7,000平方メートルの空間に50点以上の作品が集結し、通路的な空間をほぼ排除することで、以前にも増して「迷い込む」感覚の強い構成になっています。作品は今後も随時追加され、変化し続けるミュージアムというコンセプトが引き継がれています。
10. 海外への展開(マカオ・北京・上海ほか)
チームラボの施設展開は日本国内にとどまりません。マカオの「teamLab SuperNature Macao」、北京の「teamLab Massless Beijing」など、アジア各地に常設・大型展示施設を開設し、今後はアブダビやサウジアラビア・ジッダなど、さらに世界各地への拡大を計画しています。猪子自身「世界にとって、人類にとって意味があることを死ぬまでにできればいい」と語っており、日本発のアートコレクティブとして、グローバル展開そのものを表現活動の一部と位置づけています。
賛否両論:これは芸術か、それとも「映えるアトラクション」か
チームラボをめぐる最大の論点は、「これは本物の芸術なのか、それともSNS映えを狙ったエンターテインメント施設なのか」という問いです。批判的な立場からは、超主観空間という理論的な裏付けがあるとはいえ、実際の体験としては写真映えを重視したテーマパーク的な演出に寄りすぎているのではないか、という指摘が根強くあります。
この論点を象徴する出来事が、外観の似た体験型デジタルアート展示「MODS」をめぐってチームラボが起こした訴訟です。チームラボは訴訟の中で「全体的なコンセプトや印象が実質的に類似している」と主張しましたが、この表現は裏を返せば、チームラボが長年培ってきた超主観空間という哲学的な裏付けを抜きにしても、表面的な見た目だけで「チームラボらしさ」が模倣されてしまうことへの危機感の表れとも読み取れます。一方で擁護派は、日本の前近代美術の空間理論をデジタル技術で再構築するという知的な取り組みは、単なる「映えるだけの展示」とは一線を画すと評価しています。
集団創造というビジネスモデル
これまで紹介してきた9人の作家との最大の違いは、その収益構造にあります。バンクシーやバスキアのように1点の絵画がオークションで数十億円をつけるという仕組みではなく、チームラボの収益の柱は常設・期間限定施設の入場チケット収入です。「集団的創造」というコンセプトのもと、猪子は個人の天才性よりも、組織として知見を積み上げていくことの価値を重視しており、「たとえわずかでも、汎用的な知が集団の創造性や生産性にレバレッジを効かせる」と語っています。500人を超える専門家集団を維持しながら、世界各地で同時多発的に展示を展開するという規模感そのものが、個人作家では実現し得ない事業モデルになっています。
よくある質問
チームラボはひとりの作家ではないの?
はい、個人ではなくアートコレクティブ(集団)です。プログラマーや数学者、建築家、CGアニメーターなど、様々な専門分野のスペシャリストが集まり、1つの作品を共同で制作しています。
「超主観空間」とはどんな考え方?
西洋絵画の遠近法のように鑑賞者の視点をひとつに固定するのではなく、日本の絵巻物や屏風絵のように、どこから見ても、あるいは作品の一部になっても成立する空間表現のことです。チームラボはこれをデジタル技術で再構築しています。
お台場と豊洲、麻布台ヒルズの違いは?
お台場の「teamLab Borderless」は2018年に開館した世界初の常設デジタルアートミュージアムでしたが、2022年に施設の全館閉館にともない営業を終了しました。豊洲の「teamLab Planets」は水や花など身体ごと没入する体験に特化した施設として現在も営業を続けています。麻布台ヒルズの「teamLab Borderless」は、お台場からの移転という形で2024年に再オープンしました。
チームラボの作品はなぜギネス世界記録に認定されたの?
お台場のteamLab Borderlessは2019年の来館者数219万人超で、豊洲のteamLab Planetsは2023年度の来館者数250万人超で、それぞれ「単一アート・グループとして世界で最も来館者が多い美術館」としてギネス世界記録に認定されています。
まとめ
ひとりの天才ではなく、500人を超える専門家集団による「集団的創造」。日本の前近代美術の空間理論を、最先端のデジタル技術で再構築する。チームラボは、これまで紹介してきたどの作家とも異なる成り立ちを持ちながら、世界最多の来館者数という形で、その表現の力を証明し続けています。テーマパークかアートか、という問いに明確な答えが出ないまま人気を集め続けていること自体が、この集団の面白さなのかもしれません。
ほかの現代アート作家との比較や全体像は、現代アート入門のピラー記事でまとめています。


