AIアシスタント「Claude」を開発するAnthropicが、2026年10月26日に上場申請書類(S-1)を公開しました。ナスダックに「ANT」というティッカーで上場する予定で、これまで非公開だった売上や損益、計算資源の契約などが初めてまとまった形で明らかになりました。
AnthropicはGoogleのライバルである一方、GoogleやAmazonが出資し、Google Cloudの大口顧客でもあるという複雑な立場にあります。この記事では、S-1の内容と報道をもとに、Anthropicの業績、収益の中身、計算資源への依存、リスク、そしてGoogleとの関係を整理します。
この記事のポイント
- 2026年1〜6月の売上は163億ドル。前年同期(12億ドル)から約14倍
- 7〜9月期の売上は168億ドルと報道。前四半期から45%増
- 4〜6月期に初めて営業黒字。ただし純損失は会計上の評価損で807億ドル
- 売上の約8割が利用量に応じた課金、約半分がクラウド3社経由
- 計算資源の最低購入契約はAmazon・Google・Microsoftの3社だけで2,694億ドル以上
業績の概要:半年で163億ドル、7〜9月期は168億ドル
S-1によると、2026年1〜6月の売上は163億ドルで、前年同期の12億ドルから約14倍に増えました。四半期ごとに見ると、1〜3月期が47億ドル、4〜6月期が116億ドルです。さらにロイターなどの報道では、投資家向けの説明会で7〜9月期の売上が168億ドル(前四半期比45%増)だったと伝えられています。この数字はまだ監査を経たものではありません。
Anthropicの四半期売上の推移
単位:億ドル。2026年7〜9月期のみ報道(ロイター)、ほかはS-1。出典:Stock Titan、investingLive
売上の伸び方は、上場企業ではまず見られない急カーブです。2025年の年間売上は46億ドルでしたが、2026年は1〜9月だけで約330億ドルに達しています。
損益:営業黒字に転換、純損失は会計上の要因
| 期間 | 売上 | 営業損益 | 純損益 |
|---|---|---|---|
| 2024年 | 3.9億ドル | −29.8億ドル | −83.1億ドル |
| 2025年 | 45.9億ドル | −80.6億ドル | −419.7億ドル |
| 2025年1〜6月 | 11.6億ドル | −21.4億ドル | −129.7億ドル |
| 2026年1〜6月 | 162.9億ドル | −6.9億ドル | −807.5億ドル |
2026年1〜6月の営業損益は6.9億ドルの赤字ですが、4〜6月期だけで見ると9.7億ドルの黒字で、初めて営業黒字になりました。株式報酬などを除いた調整後の営業利益率は、4〜6月期で19%です。営業キャッシュフローも1〜6月で39億ドルのプラスと、前年同期のマイナス15億ドルから好転しています。
一方で、純損失は807億ドルと巨額です。その大半の約724億ドルは、発行している転換社債などの評価額が上がったことによる会計上の損失で、現金は出ていきません。会社の価値が上がるほど帳簿上の損失がふくらむ、という少し分かりにくい構造です。
収益の中身:8割が従量課金、半分がクラウド経由
Anthropicの売上の特徴は、企業向けの比重が大きいことです。S-1によると、2026年1〜6月の売上の約8割は、使ったトークン量に応じて払う従量課金でした。ClaudeのAPIを自社のサービスに組み込む企業や、コーディング支援の「Claude Code」を使う開発者が中心で、月額のサブスクは残りの約2割です。
また、売上の約48%はAmazon、Google、Microsoftのクラウドのマーケットプレイス経由です。企業はAWSやGoogle Cloudの契約の中でClaudeを使い、その代金の一部がAnthropicの売上になります。
1年前の950社超から約12倍に増えた(2026年9月末までの1年間)。
うち約250社は年1,000万ドル以上を支払っている。
2026年1〜9月。1社で10%を超える顧客はいないが、集中度は高め。
従業員は約5,300人(9月末)。直近12か月の売上で計算。
広告は入れない方針
Anthropicは2026年2月、ChatGPTが広告のテストを始めたタイミングで、Claudeには広告を入れないと宣言しました。上場申請書類に添えた創業者のレターでも、この方針を繰り返しています。ChatGPTやGoogleのAI Modeが回答の中に広告を入れていくのとは逆の道で、企業向けの従量課金とサブスクで稼ぐモデルです。
計算資源への依存:3社と2,694億ドル以上の契約
AIモデルを作り、動かすには膨大な計算資源が必要です。S-1では、Anthropicが結んでいる長期の購入契約が明らかになりました。
主な計算資源・インフラの契約額
契約期間はそれぞれ異なる(2026〜2036年)。出典:Anthropic S-1(Stock Titanの集計)
Amazon、Google、Microsoftの3社との最低購入額だけで2,694億ドル以上。2026年の売上見込みの数倍にあたる規模です。Googleとは2033年までに少なくとも1,145億ドル分の契約があり、AnthropicはGoogleのTPU(自社開発AIチップ)の大口顧客でもあります。Amazonとは2036年までに少なくとも1,100億ドルで、同社のAIチップ「Trainium」を使う契約です。
こうした契約は、Anthropicにとっては計算資源を確保するための手段ですが、クラウド各社にとっては将来の売上です。Google Cloudの受注残が5,610億ドルまで積み上がっている背景にも、Anthropicのような大型契約があると考えられます。
Googleとの関係:ライバルであり、出資先であり、顧客
ClaudeとGeminiは、企業向けAIやコーディング支援で直接競合している。
Googleは2026年に約200億ドル分の優先株を取得。上場時にさらに最大100億ドル分を買う権利もある(議決権なし)。
Anthropicは2033年までにGoogleから少なくとも1,145億ドル分の計算資源を購入する契約を結んでいる。
Google CloudのマーケットプレイスでもClaudeが販売され、Anthropicの売上の一部になっている。
GoogleにとってAnthropicは、Geminiの競争相手であると同時に、Cloud事業を伸ばしてくれる重要な顧客です。Anthropicが成長するほど、GoogleのTPUやクラウドの売上も増えます。AI業界では、こうした「競合しながら依存し合う」関係が当たり前になっています。Amazonも同様に出資者兼クラウド提供者で(Amazonの決算)、2026年4〜6月期にはAnthropic株の評価益として534億ドルを計上しました。
S-1が挙げる主なリスク
- 計算資源:必要な計算資源を確保できない、または契約が縮小・価格変更・解除されるリスク
- 取引先への依存:上位顧客やクラウド事業者への集中。しかもその一部は出資者であり競合でもある
- 競争:ライバルのモデルに性能で後れを取るリスクや、価格競争の激化
- 規制・訴訟:AIの悪用や想定外の動作による訴訟や規制。著作権訴訟では15億ドルの和解が7月に承認された。米国政府との間ではサプライチェーンのリスク指定をめぐる争いがある
- 利用規約違反の顧客:2026年の売上の5〜7%は、後に利用規約違反が判明した顧客からのものだったと推計
- ガバナンス:上場する株式の議決権は限られ、取締役の過半数は長期利益信託(Long-Term Benefit Trust)が選ぶ。公益法人として、利益以外の目的を優先する可能性がある
なかでも計算資源の問題は、Anthropic自身がリスクとして強調している点です。売上が急増しても、それを支える計算資源の確保とコストが追いつかなければ成長は止まります。数千億ドル規模の契約は、成長の前提であると同時に、重い固定費にもなり得ます。
上場の見通し
- 市場・ティッカー:ナスダック・グローバル・セレクト市場、「ANT」
- 時期:S-1上は未定。報道では11月の米中間選挙後、サンクスギビングの週が目標とされる
- 評価額:S-1では未定。報道では1.5兆〜2兆ドル超が目標
- 主幹事:ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー。日本を含む海外でも募集予定
上場すれば、AnthropicはOpenAIより先に株式市場で評価されることになります。OpenAIの上場は2027年以降にずれ込む見込みです。
Googleと比べて見えること
| 項目 | Anthropic | |
|---|---|---|
| 直近の四半期売上 | 168億ドル(報道) | 1,276億ドル |
| 売上の伸び | 前四半期比+45% | 前年比+25% |
| 主な収益源 | 企業向けの従量課金 | 広告、クラウド、サブスク |
| 広告 | 導入しないと明言 | AI Modeにも広告を拡大 |
| 計算資源 | 外部から購入(Googleを含む) | 自社のTPU・データセンター |
売上の規模ではまだGoogleの8分の1ほどですが、伸びの速さはまったく違います。一方で、Anthropicは計算資源の多くを外部、それもGoogleやAmazonから買っています。自前のチップとデータセンターを持つGoogleとは、コスト構造の面で大きな差があります。
ビジネスモデルの違いもはっきりしています。Googleが検索とAIの両方を広告で収益化しようとしているのに対し、Anthropicは広告をやらないと決め、企業がAIを業務に使う対価で稼いでいます。AIの使われ方が「調べもの」から「仕事を任せる」方向に広がるなかで、どちらのモデルが伸びるのかは、今後の業界の大きな分かれ目になりそうです。
Web担当者が押さえておきたいこと
チェックしておきたいポイント
- 広告では届かないAI:Claudeには広告枠がない。AIの回答で自社がどう扱われるかは、コンテンツの中身そのものが勝負になる
- 業務での利用が中心:企業がAPIやエージェント経由でClaudeを使う場面が多く、Webの情報がAIに読まれる経路も多様化している
- 上場後は四半期ごとの開示へ:上場すれば、企業向けAI市場の動きを決算で追えるようになる
まとめ
S-1で明らかになったAnthropicの姿は、売上が急拡大し、4〜6月期に初めて営業黒字になった一方で、巨額の計算資源契約と取引先の集中というリスクを抱えた会社です。広告を入れず、企業向けの利用で稼ぐという方針も、GoogleやOpenAIとの違いとしてはっきりしています。
GoogleにとってAnthropicは、AIの競争相手であり、出資先であり、Cloudの大口顧客でもあります。11月の上場とその後の決算は、AI業界の勢力図を読むうえで欠かせない材料になるでしょう。
あわせて読みたい:2026年7〜9月期の決算シリーズ
- AI企業の決算比較2026年Q3|広告とクラウドの勢力図
- Google決算2026年7〜9月期|検索広告が減速した3つの理由
- Microsoft決算2026年7〜9月期|Azure48%増の中身
- Meta決算2026年7〜9月期|広告単価14%上昇の理由
- Amazon決算2026年7〜9月期|AWS39%増と広告の現在地
- OpenAIの業績2026|売上500億ドルとChatGPT広告
参考資料
- Stock Titan:Anthropic IPO: The Company Behind Claude Files to List as ANT
- Fortune:Anthropic’s IPO prospectus
- investingLive:Anthropic Q3 revenue rises 45% to $16.8 billion ahead of IPO
- Axios:Anthropic pledges ad-free Claude
- Digital Applied:Amazon’s $200B Quarter(Anthropic評価益)
※本記事は2026年10月29日時点の公開情報・報道をもとにまとめたもので、投資の判断を勧めるものではありません。7〜9月期の売上は報道によるもので、監査済みの数値ではありません。金額は億ドル単位に換算し、一部を四捨五入しています。

