信号待ちで隣に並ばれると、思わず二度見してしまうバイクがある。シート下から4本突き出したマフラー、水平に切り落とされたテール、宝石のように磨き込まれたヘッドライト。ブランド名を知らなくても「これは何か違う」と分かってしまう。MV Agustaとは、そういう存在です。
速さで語られることの多いメーカーですが、本当の価値はそこではないと思っています。所有して、眺めて、跨って、エンジンをかける。その全部が特別な体験になる。1998年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれた「The Art of the Motorcycle」展では、1868年の世界初の原動機付き自転車と並んで、F4が「現代の到達点」として展示されました。
このページでは、1945年の第1号車から2026年の最新モデルまで、MV Agustaの全系譜をたどります。
MV Agustaというメーカー
イタリア北部ロンバルディア州、ミラノから北へ50kmほどのヴァレーゼに本拠を構えます。社名の「MV」はMeccanica Verghera(メカニカ・ヴェルゲーラ)の略。ヴェルゲーラは創業地の小さな集落の名前です。世界を制したブランドが、地名をそのまま名乗っている。このあたりにイタリアの手工業らしさが表れています。
数字で言えば、ロードレース世界選手権で通算75冠。ライダータイトル38、メーカータイトル37。二輪レース史においてこの記録を超えたメーカーは、いまだに存在しません。
※MV Agustaは2025年の創業80周年資料で、ライダー38・メーカー37の計75タイトルとして整理しています。古い資料では別の集計方法による数字が使われている場合があります。
80年の物語
空を飛んでいた時代(1923-1945)
始まりは飛行機でした。ジョヴァンニ・アグスタ伯爵が1923年に設立した航空機メーカーが母体です。この血統はいまも生きていて、現在のレオナルド社ヘリコプター部門は、まさにこのアグスタの系譜。ヴァレーゼ近郊にはMuseo Agustaがあり、ヘリコプターとオートバイが同じ屋根の下に並んでいます。
航空機メーカーの出自は、後のバイクづくりにも影を落としました。空力への執着、軽量素材へのこだわり、そして何より「機械は美しくあるべきだ」という感覚。MV Agustaの造形が他社と決定的に違うのは、この出自と無関係ではないはずです。
MV 98という第一歩(1943-1945)
最初の98cc単気筒エンジンが完成したのは、実は1943年のことでした。しかし戦時下の工場接収で計画は中断。敗戦国イタリアは航空機の生産を禁じられ、事業の受け皿としてオートバイ部門が本格的に動きだします。そして1945年秋、完成車MV 98として世に出ました。
当初は「Vespa」と名付ける予定でしたが、ピアッジオに商標を先に取られてしまいました。もしあの時ピアッジオが動いていなければ、いまごろスクーターの代名詞はMVだったのかもしれません。
この第1号車へのオマージュとして、2023年にSuperveloce 98 Edizione Limitataが300台限定で作られています。専用色の「Rosso Verghera」は、初代MV 98を思わせる深いボルドー系。シリーズの中でも独特の存在感を放つ一台です。
グランプリを支配した黄金期(1948-1976)
MV Agustaの伝説は、この30年で作られました。
2代目社長のドメニコ・アグスタは、レースを情熱そのものとして運営した人物です。本業のヘリコプターが利益を生んでいたため、バイク部門は採算を度外視できた。ジレラやベネリから最高の技術者を引き抜き、最高のライダーを集める。市販車の生産はむしろ余技という位置づけでした。金に糸目をつけないワークスチームが、20年以上にわたって世界の頂点に居座り続けたわけです。
最高峰の500ccクラスでは、1958年から74年まで17年連続でタイトルを獲得。この記録は現在も破られていません。
ライダーの名前も豪華です。ジョン・サーティースは1956年、1958年、1959年、1960年の4度にわたり500cc世界王者となり、後にF1でも世界チャンピオンに輝きました。二輪と四輪の両方で世界を制した唯一の人物です。マイク・ヘイルウッドは1962年から65年まで4連覇。そしてジャコモ・アゴスティーニは、生涯15の世界タイトルのうち13をMV Agustaで獲得しました。
アゴスティーニの名は、いまも赤とシルバーの「Ago Red / Ago Silver」というカラー名として現行モデルに残っています。Superveloce AgoやF3 800 Agoといった記念モデルも作られてきました。
終わりは静かに訪れます。1971年にドメニコが世を去り、1976年にレース活動の終了が決まる。同じ年、アゴスティーニがニュルブルクリンクで挙げた勝利が、MV Agusta最後のグランプリ優勝となりました。
公道に降りてきた4気筒(1965-1977)
この時代の市販車も語る価値があります。600 4C(1966-1970)は、横置き直列4気筒を搭載した市販二輪車として世界初の存在でした。592ccで52ps、ケーブル駆動のディスクブレーキという当時としては先進的な装備を持ち、生産台数はわずか135台とも127台とも言われます。
続く750S(1970-1975)は743.3ccで72ps、最高速200km/h。生産583台。このモデルにまつわる有名な逸話があります。伯爵は、プライベーターが自社のワークスマシンと戦うことを望まなかった。だからあえてレースには不向きなシャフトドライブを採用させた、というものです。真偽はともかく、いかにもMV Agustaらしい話ではあります。
そして750 S America(1975-1977)。経営が傾きはじめた1974年、米国の輸入元2名がヴァレーゼに乗り込み、直談判の末に生まれたモデルです。ボアを2mm拡大して789.7cc、75ps。後に82psの800 SS Super America、837ccで90psの850 SS Monzaへと発展しました。
これらは1990年代のF4と機械的に直結しているわけではありません。F4はCagivaの研究部門CRCが新規に設計した水冷4気筒です。それでも「MVといえば横置き4気筒」というイメージは、この時代に決定的に刻まれ、後の復活へと受け継がれていきました。
ブランドが眠った20年(1977-1996)
1977年に生産ラインが止まり、MV Agustaは市場から姿を消します。しかし伝説は消えませんでした。この20年間、世界中のコレクターが750 S Americaを探し、レース史を語る本は必ずMV Agustaの章を持っていた。ブランドは休眠していただけで、価値は減っていなかったのです。
F4という復活(1997-2004)
1991年、ドゥカティも傘下に持っていたカスティリオーニ兄弟のCagivaが商標を取得します。彼らが設計を託した相手が、ドゥカティ916を生んだマッシモ・タンブリーニでした。
1997年のミラノショーに姿を現したプロトタイプは、会場を静まり返らせたと伝えられています。そして1999年、F4 750 Serie Oroとして300台限定で市販化。マグネシウム製のスイングアームとホイール、カーボンの外装、そして4本出しのセンターアップマフラー。開発初期にフェラーリの技術協力があったとされ、ラジアルバルブという独特の機構はその名残です。「バイク界のフェラーリ」という呼び名は、ここから定着しました。
冒頭で触れたグッゲンハイム展にF4が選ばれたのは、まさにこの1998年のことです。市販前のマシンが美術館のロビーに置かれ、130年の二輪史の到達点として扱われた。デザインの力だけで、そこまで辿り着いたモデルでした。
そして現在(2005-)
2000年代以降、MV Agustaの経営母体はプロトン、ハーレーダビッドソン、カスティリオーニ家、メルセデスAMGの資本参加、KTMと移り変わってきました。2014年のAMG出資は、のちのルイス・ハミルトンとのコラボレーションにつながっています。
転機は2025年です。1月にサルダロフ家のArt of Mobilityが完全支配に戻る合意が発表され、7月に取引が正式に完了。MV Agustaは完全な独立を取り戻しました。同時にルカ・マルティンがCEOに就任しています(公式リリース)。2024年の販売台数は前年比116%増の4,000台と、勢いも数字に表れています。
日本では2026年4月1日付で正規輸入代理店がコシダテックに変わり、新たな体制がスタートしました。
EICMA 2025では創業80周年と、Brutale誕生25周年を記念した新型が登場。さらに直列5気筒「Quadrato」というコンセプトエンジンも披露されました。3気筒側の前クランクと2気筒側の後クランクを「U」字に配置するという、きわめて独創的な構成です。80年経ってなお、この会社は誰もやらないことをやろうとしています。
現行モデルのエンジンは3つのファミリーに整理できる
歴史をたどると単気筒から4気筒まで実に多彩ですが、いま売られているモデルに限れば、心臓は3種類です。ここを押さえると現行ラインナップが一気に見えてきます。
| エンジン | 搭載モデル | キャラクター |
|---|---|---|
| 998cc 直列4気筒 「Corsa Corta」 | F4、Brutale 1000、Superveloce 1000、Rush 1000 | 208psに到達した高回転型。ラジアルバルブという独自機構を持つ |
| 798cc 直列3気筒 (逆回転クランク) | F3、Brutale 800、Dragster、Superveloce、Turismo Veloce | 長く主力を担ってきた一基。旋回の軽さと、他では聞けない咆哮 |
| 931cc 直列3気筒 (950 EVO系) | Enduro Veloce、LXP Orioli、Brutale Serie Oro(2026) | 低回転から力強い新世代。Brutale用は148psまで高められた |
直3の逆回転クランクは、MV Agustaの技術的な誇りです。クランクをタイヤと逆方向に回転させることでジャイロ効果を打ち消し、車体を軽々と寝かせられるようにする。MotoGPマシンが使う手法を、F3 675が量産車として世界で初めて市販化しました。3気筒のMV Agustaが「ヒラヒラ曲がる」と言われるのは、この技術があるからです。
ちなみに675ccという排気量は、当時のスーパースポーツ世界選手権の規定が4気筒600cc・3気筒675ccだったことに由来します。レースのために作られた排気量が、そのまま公道に出てきたわけです。
グレード名を読み解く
MV Agustaは同じモデルに多彩な派生を用意します。呼称の意味を知ると、選ぶ楽しみが一段深くなります。ただし、これらは年代やモデルによって位置づけが変わるため、個別に確認するのが確実です。
- Serie Oro — 「金のシリーズ」。マグネシウムやカーボンを惜しみなく使った少量限定の上位仕様。多くの場合これが先に発表され、量産版が続きます
- S / R / RR — 一般にR、RRは高性能・上位仕様を指しますが、普遍的な序列があるわけではなく、世代ごとに装備や意味合いが異なります
- RC — Reparto Corse(レース部門)に由来する呼称。多くは限定生産で、レーシングキットが用意される場合があります
- Rosso — 赤を基調としたカラー/グレード名。世代によって装備・出力・価格帯の位置づけが異なります
- SCS — Smart Clutch System。Rekluse製の遠心式クラッチ機構を採用し、街乗りの快適さが別物になります
- Ottantesimo — イタリア語で「80番目」。創業80周年を意味する2025年の記念シリーズです
- LH44 / Ago — ルイス・ハミルトン、ジャコモ・アゴスティーニとのコラボレーション
系譜をたどる
F4量産モデル(1999-2018) — 完成されたデザイン
1997年のプロトタイプ公開を経て、1999年に量産が始まりました。タンブリーニが描いた基本造形は、その後20年にわたってF4のデザイン言語として受け継がれます。2010年には大規模な世代交代を迎えますが、4本出しのセンターアップマフラー、片持ちスイングアーム、菱形のヘッドライトといった象徴的な要素は変わりませんでした。
シート下から4本のエキゾーストを覗かせるレイアウト、片持ちスイングアーム、星形ホイール。これらF4を象徴する意匠は、その後のスーパーバイクのデザインに大きな影響を与えました。
第1世代は749ccから始まり、998cc、1078ccへと拡大。2010年の第2世代でモデル名から排気量表記が外れます。最終形のF4 RCは公道仕様で205ps、付属のレーシングキットを組めば212ps。マグネシウム合金カバー、チタンボルト、カーボン外装、リチウムイオンバッテリーと、軽量化の執念が詰まった250台限定でした。
→ F4シリーズ全史
Brutale(2001-) — ネイキッドの基準を作った
F4からカウルを取り去り、美しいトラスフレームと4気筒エンジンを露わにしたモデルです。2001年の登場時、ネイキッドというジャンルの基準そのものを塗り替えました。
749ccから始まり909cc、982cc、1078ccと4気筒で拡大を続けたのち、2013年に3気筒の675/800が加わります。現在の頂点はBrutale 1000 RR。208psは市販ネイキッド最強クラスで、乾燥重量186kg、2次バランサーで振動を54%削るという凝りようです。ウィングレットを備えた姿は、公道を走る戦闘機のようにも見えます。
2026年にはBrutale誕生25周年を機に、新世代が登場しました。Brutale Serie Oroは300台限定で、Enduro Veloce用を発展させた931ccの新型3気筒「950 EVO」を搭載。148ps/11,200rpm、107Nm/8,400rpmを発生し、トルクの85%を3,500rpmから使えます。フレームとスイングアームも新設計で、Öhlins、Brembo、Termignoniを標準装備。5年保証つきです。
F3 / Superveloce(2012-) — 3気筒の真骨頂
F3は逆回転クランクを引っさげて登場したミドルスーパースポーツ。675ccと798ccがあり、現在はF3 RRが頂点に立ちます。
そのF3を土台に、60〜70年代のGPマシンを現代の技術で再解釈したのがSuperveloceです。丸型ヘッドライトの中に浮かぶ黄色のLEDは、500ccGP時代のゼッケンプレートを模したもの。デザイン賞を次々と受賞し、近年最大のヒット作になりました。
見た目だけのモデルではありません。F3に対してハンドルを18mm上・6mm後方へ移し、シートの座面を前傾から水平に変更。リアサスとバルブタイミングも低中速重視に振られています。バイクブロスの試乗記では、この作り込みが丁寧に検証されています。
2024年には4気筒を積むSuperveloce 1000 Serie Oroが登場しました。ネオレトロの外観に208psの直列4気筒を収めた500台限定の最上位で、シリーズの頂点に立つ一台です。
Dragsterと800ファミリー(2014-)
Brutale 800を土台に、テールを大胆に切り詰めて極太リアタイヤを組み合わせたのがDragster。ショーモデルがそのまま公道に出てきたような一台です。
同じ3気筒を積むツアラーがTurismo Veloce。専用パニアを備え、SCSの自動クラッチを選べば長距離が驚くほど楽になります。和歌山利宏氏の試乗記では、安定性を土台にしながら積極的にスポーツできる仕上がりだと評価されています。
Enduro Veloce / LXP(2023-) — 冒険への回答
パリ・ダカールで2勝を挙げたCagiva Elefantの血を引くプロジェクトから生まれました。931ccの新設計3気筒は124psを発生し、トルクの85%を3,500rpmで発揮する実用的な特性。ローンチモデルのLXP Orioliは、ダカール覇者エディ・オリオーリの名を冠した500台限定でした。
限定モデルという世界
MV Agustaを語るうえで避けて通れないのが、限定モデルの多さです。数えはじめると本当にキリがない。色を変えただけのものではなく、素材が変わり、エンジンの中身が変わり、専用のキットが付く。そして台数の数字には、たいてい意味が込められています。
人物へのオマージュ
MV Agustaは、自らの歴史を作った人間に敬意を払うメーカーです。
F4 750 Senna(2002)とF4 1000 Senna(2006)は、アイルトン・セナ財団とのコラボレーションで各300台。F4 Tamburini(2005)はF4を設計したマッシモ・タンブリーニに、F4 CC(2007)とF4 Claudio(2017)は復活の立役者クラウディオ・カスティリオーニに捧げられました。
Superveloce Ago(2021)は311台。この数字は、アゴスティーニがMV Agustaで積み重ねた勝利数に由来します。
そして2025年のSuperveloce 1000 Ago。アゴスティーニの83歳の誕生日に発表され、生産台数はわずか83台です。ステアリングヘッドのナンバープレートは18金製、イグニッションキーにはアゴスティーニが自身のコレクションから提供したトロフィーの真鍮コインが埋め込まれています。タンクの革ベルトには「15 Titoli Mondiali(15の世界タイトル)」の金プレート。購入者83名には、Dainese製のオーダーメイドスーツとAGVの特別仕様ヘルメットを注文する権利が与えられました。
航空機というルーツへの敬意
F4 Frecce Tricolori(2010)は、イタリア空軍の曲技飛行隊フレッチェ・トリコローリ結成50周年を記念した一台。ブルーの車体にイタリア国旗をあしらい、カーボンとチタンで仕立てられました。生産はわずか11台。飛行隊の機体数と同じ11という数字で、ステアリングヘッドの銀プレートには、その車体が対応する機体の番号が刻まれています。11人のパイロット、11台のバイク。航空機メーカーから始まったブランドらしい、筋の通った限定車です。
Brutale 910Rという宝庫
限定車が最も密集しているのが、2006年から08年にかけての910Rです。
Brutale 910R Italiaは、イタリア代表が2006年のワールドカップを制したことを記念したモデル。ブルーの車体に金文字で「Italia」、タンクには「Campioni del Mondo 2006」。優勝メンバーには背番号入りの個体が贈られ、ステアリングヘッドの18金プレートに選手名と番号が刻まれました。コレクター向けに100台が追加され、合計124台となっています。
Brutale 910R Wallyは118台。モナコのヨットビルダーWallyとのコラボで、118という数字は同社の代表艇WallyPowerの全長118フィートに由来します。Brutale 910R Starfighterは99台、その上に立つStarfighter Titanium、そしてBrutale 910R Hydrogenと続きます。
さらに2022年のBrutale 1000 RR Blue & White M.L.は、なんと生産1台のみ。910R Italiaへのオマージュとして作られ、車体番号は001/001です。
アートとコラボレーション
2023年のSuperveloce Arshamは、ニューヨークを拠点とする現代アーティスト、ダニエル・アーシャムとのコラボレーション。彼の代名詞である「erosion(侵食)」の手法で、走るバイクを彫刻に変えた作品です。生産は6台のみ。マイアミのアート・バーゼルで発表されました。
| モデル | 年 | 台数 | 背景 |
|---|---|---|---|
| Dragster RR LH44 | 2016 | 244台 | ルイス・ハミルトン監修。ゼッケン44に由来 |
| F4 LH44 | 2017 | 44台 | ハミルトン第2弾。44台のみ |
| Superveloce Alpine | 2021 | 110台 | Alpine A110にちなむ110台。即完売 |
| Superveloce Arsham | 2023 | 6台 | ダニエル・アーシャムとのアートコラボ |
| Brutale 1000 ABT | 2025 | 130台 | 四輪チューナーABTの創業130周年 |
レースの記憶
F4 Veltro(2006)は公道用のStradaが99台、サーキット用のPistaが23台という徹底ぶり。Reparto Corseの名を冠したRCシリーズも、F4 RCが250台、F3 RCが200台、Dragster RC SCSとTurismo Veloce RC SCSが各300台と、モデルごとに台数が設定されています。
サーキットの名を冠したものも見逃せません。Brutale 1000 Nürburgring(2022)は150台で、チタンコンロッドとDLCコーティングを与えられた特別仕様。Brutale 1000 RR Assen(2024)は、MV AgustaがAssenで挙げた35勝を記念する300台。Rotobox製のカーボンホイールを履きます。
Rushという系譜
Brutale 1000をさらに過激にした、ドラッグレーサー的な派生。リアホイールカバーが強烈な個性を放ちます。
| モデル | 年 | 台数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Rush 1000 | 2020 | 300台 | シリーズの原点 |
| Rush Army | 2021 | 限定 | ミリタリー調のグレー×イエロー |
| Rush Mamba | 2024 | 300台 | 専用色「Mamba Red」 |
| Rush Titanio | 2026 | 300台 | チタンづくしの最新作 |
Mambaには面白い逸話があります。「Mamba Red」は職人の手作業による塗装で、施工できる時期が9月下旬から11月初旬に限られていたというのです。塗料が湿度と温度に極めて敏感で、その時期を外すとピンクやオレンジがかって乾いてしまう。300台という数字の裏には、そんな事情がありました。
そして2026年、サンモリッツで開かれたThe I.C.E.(International Concours of Elegance)で発表されたのがRush Titanio。300台限定で、2026年後半の導入が予定されています。名前のとおりチタンづくしで、Arrow製のチタンスリップオン、チタンのダッシュボードステーとヘッドライトステー、チタンのタンクフロントカバー。エンジンには16本のチタンバルブと4本の鍛造チタンコンロッド。カーボンは織り目をツイルに変更し、アルマイト部品は「Blu Titanio」という専用色で仕上げられました。シートはアルカンターラを熱溶着とレーザー彫刻で一体成型した、世界初の製法によるものだそうです。
80周年のOttantesimo
2025年のOttantesimo Collectionは、創業80周年を記念して6モデルが各500台。Brutale RR、Dragster RR、F3 RR、Superveloce S、Brutale 1000、Brutale 1000 RRが揃い踏みしました。F3 RR OttantesimoはAkrapovič製の専用キットで155ps、Superveloce S OttantesimoはArrow製排気で150psに高められています。
日本発の限定車
限定車はイタリア本国だけの話ではありません。日本のMOTO CORSEは、2000年代に独自のコンプリートバイクを世に送り出してきました。
2001年のF4 Challengeは年間20台限定。2004年のBRUTALE SC、2005年のBRUTALE 860CR(858ccにスケールアップ)、同年のF4 1000SCと続き、そしてF4-1080CR Platino。1078ccまで排気量を上げ、チタンフルエキゾーストと専用EP-ROMで190psを発揮した一台です。イタリア車を日本の手で仕立て直すという文化が、確かにここにありました。
主要な限定モデル一覧
以下は歴史的に重要なものを中心とした抜粋です。カラー限定や地域限定まで含めると、実際の数はさらに膨れ上がります。
| 時代 | 主な限定モデル |
|---|---|
| F4 750期 (1999-2004) | F4 750 Serie Oro(300台)、F4 750 SPR(300台)、F4 750 Senna(300台)、F4 750 Ago(300台)、F4 SP-01 |
| F4 1000期 (2005-2009) | F4 Tamburini、F4 1000 Ago(300台)、F4 1000 Senna(300台)、F4 Mamba、F4 Nero、F4 Veltro Strada(99台)/Pista(23台)、F4 Corse、F4 CC(100台)、F4 1078 RR 312 Edizione Finale(100台) |
| 第2世代F4期 (2010-2019) | F4 Frecce Tricolori(11台)、F4 RC(250台)、F4 LH44(44台)、F4 Claudio(100台)、RVS#1 |
| Brutale 4気筒系 | Brutale 750 Serie Oro(300台)、Brutale America、Brutale CRC、Brutale Gladio、Brutale Mamba、Brutale 910R Italia(124台)、910R Wally(118台)、910R Starfighter(99台)、910R Starfighter Titanium、910R Hydrogen、Brutale 1078 RR Jean Richard |
| Brutale 1000系 | Serie Oro(300台)、Nürburgring(150台)、Assen(300台)、ABT(130台)、Blue & White M.L.(1台) |
| 3気筒系 | F3 Serie Oro(200台)、F3 800 Ago(300台)、F3 800 RC(350台)、F3 RC(200台)、F3 XX、Brutale 800 RC(350台)、Dragster RC SCS(300台)、Dragster 800 RR America(200台)、Dragster 800 RR Pirelli、Turismo Veloce RC(250台)/RC SCS(300台)、Dragster RR LH44(244台) |
| Superveloce系 | 800 Serie Oro(300台)、75 Anniversario(75台)、Ago(311台)、Alpine(110台)、Arsham(6台)、98 Edizione Limitata(300台)、1000 Serie Oro(500台)、1000 Ago(83台) |
| Rush系 | Rush 1000(300台)、Rush Army、Rush Mamba(300台)、Rush Titanio(300台) |
| 80周年(2025) | Ottantesimo Collection 6モデル各500台 |
| 2026年 | Brutale Serie Oro(300台) |
| 日本発 | MOTO CORSE F4 Challenge(年20台)、BRUTALE SC、BRUTALE 860CR、F4 1000SC、F4-1080CR Platino |
44台、110台、130台、11台、83台、そして6台。数字を知ってから眺めると、同じ車体がまったく違って見えてきます。そしてこのリストですら、まだ全部ではありません。
→ 台数と装備の詳細は限定・コラボモデル完全リスト
所有するということ
MV Agustaの本当の価値は、スペック表には表れません。
ガレージの扉を開けたときに目に入る、あの造形。低い位置から光を受けて浮かび上がるタンクの曲面。イタリアの職人がひとつずつ組み上げた証として、多くのモデルにはシリアルナンバーのプレートが添えられます。乗らない日でも、ただ眺めているだけで満たされる。そういう時間を持てるバイクは、そう多くありません。
そしてエンジンに火を入れれば、3気筒の乾いた咆哮が返ってくる。街を流すだけでも、視線が集まるのが分かります。「これ、何ていうバイクですか」と聞かれる回数は、おそらく他のどのメーカーより多いはずです。
1998年、グッゲンハイム美術館は130年の二輪史を締めくくる一台としてF4を選びました。ヴァレーゼの小さな工場で80年にわたって受け継がれてきた美意識を、自分のガレージに置けるということ。MV Agustaを選ぶというのは、そういうことなのだと思います。
各モデルの年式ごとの違いや派生グレードの詳細は、上のリンクから系譜別の記事にまとめています。
【主な参照元】MV Agusta公式サイト/バイクブロス バイクカタログ/同 試乗インプレ一覧/Museo Agusta/ヤングマシン
スペックは本国仕様の公称値です。日本仕様は異なる場合があります。


