MVアグスタ Enduro Veloceとは?|LXP Orioliと931cc3気筒、Lucky Explorerの全容を解説

MV Agusta

MV Agustaがアドベンチャーを作る。2021年にその報せが届いたとき、多くの人が意外に思いました。サーキットと美術館が似合うブランドが、砂漠を走るバイクを出す。

けれど、これは唐突な話ではありませんでした。ヴァレーゼには、パリ・ダカールを二度制した記憶が眠っていたのです。

Cagiva Elefantという原点

1980年代から90年代初頭、パリ・ダカールで最も印象的なマシンのひとつがCagiva Elefantでした。

CagivaはCAstiglioni GIovanni VAreseの略。カスティリオーニ兄弟の父ジョヴァンニの名と、創業地ヴァレーゼを組み合わせたものです。当時この兄弟はドゥカティも所有していたため、ElefantにはドゥカティのVツインが積まれていました。

そしてスポンサーがラッキーストライク。白と赤のあの塗装は、タバコブランドのカラーです。エディ・オリオーリはこのマシンで1990年と1994年にパリ・ダカールを制しました。

のちにCagivaはMV Agustaの傘下ブランドとなり、長く休眠状態に置かれます。しかし血統は途切れていませんでした。

Lucky Explorer Project(2021)

2021年11月のミラノEICMAで、MV Agustaは「Lucky Explorer Project」を発表します。ラリーレイドとオフロードレースにおけるシランナ(ヴァレーゼの工場所在地)の遺産を集約する、という趣旨のプロジェクトでした。

タバコ広告が禁止された現在、「Lucky Strike」の名は使えません。そこで「Lucky Explorer」という名で往時のカラーと空気を呼び戻す、というのがこの企画の発想でした。

披露されたのは2台です。

Lucky Explorer Project 5.5

554ccの並列2気筒を積む、MV Agustaとしては異例に小さなアドベンチャー。エンジンは中国のQJ Motor(銭江)との協業によるもので、水冷DOHC8バルブから48ps/7,500rpm、51Nm/5,500rpmを発生します。

スチールパイプのクレードルフレームに前後KYBのサスペンション、Brembo製4ポットラジアルキャリパーと320mmディスク、ワイヤースポークホイールは前19インチ・後17インチ。白/赤/金というElefantを思わせる配色でした。

ただしこのモデルは、市販に至ることなくラインナップから消えます。KTMがMV Agustaの経営に関与を深めるなかで、整理された格好です。

Lucky Explorer Project 9.5

こちらがすべての始まりです。QJとの協業ではなく、MV Agustaが独力で開発した931ccの新型直列3気筒を搭載しました。

Brutaleなどの798ccと血縁関係はあるものの、共通部品は多くありません。シリンダーヘッド、スチール製の吸排気バルブ、ヘッド・シリンダーベースのガスケット、鍛造アルミピストンはいずれも専用設計。クランクケース、潤滑系、冷却系も新規です。圧縮比12.5:1で、123ps/10,000rpm、102Nm/7,000rpmを発生します。

そして注目すべきは、120度位相の逆回転クランクをこのクラスに持ち込んだこと。アドベンチャーカテゴリーでこれをやっているメーカーは他にありません。慣性を減らして方向転換を軽くするという、MV Agustaらしい発想です。

Rekluse製の自動クラッチと電子制御シフトもオプションとして用意されました。

LXP Orioli(2024) — 500台の記念碑

2023年のEICMAで、9.5は正式な名前を与えられます。LXP Orioli。ダカール覇者エディ・オリオーリの名を冠したモデルです。

500台限定で、その一台一台にオリオーリ本人のサインが入ります。価格は約3万ユーロ。

技術的にも興味深い一台です。これはMV Agustaの現代モデルで初めて、伝統のスチールトレリス+アルミ鋳造という構成を採らなかったバイクでした。代わりに選ばれたのは、オフロードに適したスチールのダブルクレードル。中央にビームを持たないペリメーター構造で、肉厚を最適化して重量を抑えています。リアのスチールフレームとアルミのスイングアームは着脱可能です。

サスペンションはSachsで、48mmの倒立フォークとモノショック。セミアクティブではなく全方向手動調整式で、ストロークは前後210mm。最低地上高230mm、前21インチ・後18インチという本格的な構成です。シート高は850mmと870mmの二段階に調整できます。乾燥重量224kg。

クラッシュバー、スキッドプレート、荷物類は標準装備。7インチのTFTディスプレイを備え、MV Agusta Rideアプリと連携します。

そして粋なのがハンドルグリップです。ここに「Lucky Explorer」の文字が残されています。プロジェクト名は消えても、原点の呼び名は残した。

Enduro Veloce(2024-) — 量産モデルへ

LXP Orioliの土埃が落ち着く間もなく、より手の届きやすい量産版が登場します。名前はEnduro Veloce。オーストラリアの認証書類で改名が先に判明したという、少し変わった経緯もありました。

931cc「Veloce」エンジン

ボア81mm×ストローク60.2mm。124ps/10,000rpm102Nm/7,000rpm。最高速は220km/hを超え、0-100km/h加速は3.72秒です。

数字以上に重要なのは特性です。Turismo Veloceの798ccが8.6kgm/8,500rpmなのに対し、この931ccは10.4kgmを1,500rpm低い7,000rpmで発生。しかもトルクの85%を3,000rpmから使えます。荷物を積んで、未舗装路をゆっくり登るときに効いてくる性格です。

装備

6軸IMU、コーナリング機能付きABS、3つ+カスタム1つのライディングモード、双方向クイックシフター、8段階トラクションコントロール、フロントリフトコントロール、エンジンブレーキコントロール、スロットル感度とトルクマッピングの3段階調整、レブリミッター、クルーズコントロール。

アドベンチャーに求められるものは、ひととおり揃っています。

2026年モデル — 装備を盛って値上げなし

2026年3月5日に発表された最新モデルは、内容が大きく充実しました。

  • アルミ製パニアケース(39Lと33L)を標準装備
  • クラッシュバー、フォグランプ、センタースタンドも標準化
  • タイヤをブリヂストンA41から、よりオフロード寄りのAT41へ変更
  • 新色2種(Nero Intenso/Grigio Antracite、Bianco Perlato RC/Blu Nordico)
  • 5年保証

そしてこれだけ足しながら価格は据え置き。MV Agustaが本気でこのカテゴリーに残るつもりだということが、この一点からも伝わってきます。

スペック一覧

モデル排気量最高出力台数
Lucky Explorer Project 5.52021(コンセプト)554cc 並列2気筒48ps/7,500rpm市販中止
Lucky Explorer Project 9.52021(コンセプト)931cc 直列3気筒123ps/10,000rpm
LXP Orioli2024931cc 直列3気筒124ps/10,000rpm500
Enduro Veloce2024-931cc 直列3気筒124ps/10,000rpm

※出力は本国仕様の公称値です。日本仕様は異なる場合があります。

主要諸元(Enduro Veloce)

エンジン水冷4ストローク直列3気筒 931cc
ボア×ストローク81mm×60.2mm
最高出力124ps/10,000rpm
最大トルク102Nm/7,000rpm(85%を3,000rpmから発生)
フレーム高張力鋼ダブルビーム+ダブルクレードル・トレリスサブフレーム
フロントサスSachs 48mm倒立フォーク/ストローク210mm
リアサスSachs リンク式モノショック
ホイール前21インチ/後18インチ
最低地上高230mm
ディスプレイ7インチTFT

MV Agustaが砂を選んだ理由

Enduro Veloceは、たしかに他のMV Agustaのような艶やかさは持っていません。空力と防風を優先した造形は、Africa TwinやMultistradaと並ぶ大柄なシルエットです。

それでもこのバイクには、はっきりとした筋が通っています。ダカールを二度制したElefantの記憶。それを現代の技術で、しかもMV Agustaにしかできない逆回転クランクという武器を持たせて再現した。

赤いカーペットではなく砂埃を愛する人へ。ヴァレーゼは、そういう相手にも自分たちの物語を用意していたのです。

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【主な参照元】MV Agusta公式サイトバイクブロス バイクカタログ同 試乗インプレ一覧Rider Magazine(Lucky Explorer Project)Canada Moto Guide(LXP Orioli)MotoDBautoevolution